睡眠障害がもたらす生活習慣病について
日本と欧米における睡眠薬の使用状況
日本は睡眠障害を感じるときは、主に寝酒。欧米では寝酒よりも睡眠薬を使用して眠る傾向がある。
日本では睡眠薬は体に良くないという先入観があるせいか、睡眠薬は飲みたくないという気持ちがある。しかし、睡眠薬が良いとも限らないが、寝酒は体にとって有害であることは間違いないと考えられる。
寝酒が睡眠に対して悪影響をもたらす理由
寝酒は睡眠の質を落とすため良くない。良い睡眠にするには質を高める必要性がある。
ヒトの睡眠について
ヒトの睡眠は、脳波と眼球運動のパターンから分類されている。急速眼球運動を伴う睡眠をレム睡眠といい、この運動を伴わない睡眠をノンレム睡眠または徐波睡眠という。入眠時にはまずノンレム睡眠が現れ、1~2時間ほど続いてレム睡眠に移行する。以後ノンレム睡眠とレム睡眠を交互に繰り返し、周期は約90分で、一晩につきレム睡眠は4~5回現れる。
「良質の睡眠」とは、深い睡眠が得られることを指す。
この深い睡眠はノンレム睡眠にあたり、入眠後2~3時間までに現れるとされているため、質の良い睡眠は深い睡眠をいかに確保できるかが重要になってくる。
睡眠の質を示すパラメーターとして、就寝後から覚醒するまでの時間(HUS: Hours of Undisturbed Sleep)で評価できると考えられている。HUSは起床による覚醒までの時間ではなく、排尿等で中途覚醒した場合は夜間の第一睡眠までの時間を指す。つまり、入眠から最初に覚醒するまでの時間のことをいう。
ヒトは中枢で光を感知して概日リズムを調節している。視交叉上核にある時計遺伝子が概日リズムを調節することが分かっていたが、最近の研究結果から末梢組織においても外からの刺激を受け、リズムを調節する遺伝子が存在することが明らかになっている。
その調整因子として、中枢における刺激が光であるのに対して、末梢では朝食がその役割を担っていることが明らかになった。
夜中に勤務するシフトワーカーにおける研究結果
夜中に勤務するシフトワーカーは、肥満になりやすい、糖尿病になりやすい、がんを発症しやすい傾向にある。さらに、勤続年数が多いほどその傾向は強くなる。夜勤をする機会が多い職業として医師、看護師またタクシードライバーなどが考えられる。
睡眠と糖尿病の関連性
糖尿病は血糖値が上昇する疾患である。血糖値が上昇するメカニズムの1つとして、睡眠不足になるとインスリンの産生量が低下する。また、インスリン抵抗性が増加するということがある。
インスリン抵抗性とは、インスリンの効きやすさを示す語句であり、これが高いほどインスリンの効果が出にくいということになる。そして、糖代謝が低下することによって血糖が上昇するというメカニズムが明らかになっている。
また、睡眠不足は内側からの血糖値を上昇させる理由だけでなく、外側からの血糖値を上昇させる理由も示されていた。つまり、食餌量にも影響する。
そのメカニズムとして、睡眠障害が食欲を抑制するレプチンの産生を減らし、さらに食欲を増加させるグレリンの産生を増加させるためであることが報告されている。
したがって、睡眠不足は体内にある血糖値を下がりにくくするとともに、体外からの積極的に血糖値を摂取しようとする状況を作りやすくすることにより、糖尿病になりやすい状況になるのではないかと考えられている。
睡眠障害と高血圧の関連性
血圧は通常、昼間の活動期に上昇し、夜間の睡眠時に下降する日内変動をする。夜間睡眠時の血圧の平均値が昼間活動期の血圧の平均値より10~20%低下しているものをdipper型という。一方、夜間睡眠時においても血圧が低下しないものをnon-dipper型という。
睡眠不足になると、起きている時間が長くなることでdipper型からnon-dipper型へと移行が起こりやすいということが明らかになっている。
高血圧は熟眠障害が多いとの報告がある。つまり深い睡眠がとれていないことが高血圧の原因となりうると考えられている。
徐波睡眠減少の原因とは?
①環境要因・・・工事、騒音、家族の歯ぎしり
②生理的要因・・・時差ぼけ
③心理的要因・・・不安、うつ
④器質的疾患・・・夜間頻尿(OAB)
特にOABについては内科医の観点から、積極的に治療が行わなければならないと考えている。
実際、イミダフェナジンによる治療により成果を上げている。この薬は膀胱に尿を貯めやすくすることにより尿の回数を減らすことができる。イミダフェナジンの投与によりHUSを延長させることができ、これにより徐波睡眠の減少を防止できた症例を経験している。
まとめ
睡眠障害は生活習慣病つまり糖尿病、高血圧の発症起因となりうる。その理由は概日リズムの乱れと徐波睡眠の減少によるものである。
理想の睡眠とは?
睡眠時間は7時間が理想的と言われている。午前0時に就寝し、午前7時に起床する習慣づけを行うことで実現したい。さらに睡眠の質を高める入眠後の0時から3時までの睡眠時間を確保した睡眠が必要である。