主要降圧薬の積極的適応
主要降圧薬と第一選択薬
高血圧の薬物治療は薬剤を服用することによって血圧を下げることになりますが、血圧を下げる方法として何種類か方法論があります。例えば、直接的に血管を拡げることによって血圧を下げるもの、利尿作用によって血圧を下げるもの、心拍数を下げることによって血圧を下げるものなどいくつか方法があり、単に血圧を目標の数値までに下げれば良いと言う訳ではなく、個々の患者の状態に合わせて適切な薬剤を選択していく必要があります。
一般的に多く使用されている降圧薬として、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬があります。臨床試験の成績などから、投与する患者の状況によって、積極的に使うべき薬剤や使ってはいけないもの(禁忌)または慎重に投与されるべきものがあり、これは薬剤の特性や副作用や合併症の有無などによって判断されます。このような降圧薬を主要降圧薬といい、積極的な適応がない場合の高血圧に対して、最初に投与すべき降圧薬を第一選択薬といいます。
<主要降圧薬の積極的適応>
Ca拮抗薬 |
ARB/ACE阻害薬 |
サイアザイド系 利尿薬 |
β遮断薬 |
|
---|---|---|---|---|
左室肥大 | ● |
● |
|
|
心不全 |
|
● |
● |
● |
頻脈 | ● |
|
|
● |
狭心症 |
● (非ジヒドロピリジン系) |
|
|
● |
心筋梗塞後 |
|
● |
|
● |
CKD(蛋白尿-) |
● |
● |
● |
|
CKD(蛋白尿+) |
|
●
|
|
|
脳血管障害慢性期 |
● |
● |
● |
|
糖尿病/メタボリックシンドローム |
|
● |
|
|
骨粗鬆症 |
|
|
● |
|
誤嚥性肺炎 |
|
● (ACE阻害薬) |
|
|
(高血圧治療ガイドライン2014より引用)
以下に主要降圧薬とその使用例について記述していきたいと思います。
主要降圧薬の使用症例
肥満にテルミサルタン
肥満があったり、メタボリックシンドロームが強く疑われるケースにおいてはレニン・アンジオテンシン系阻害薬のACE阻害薬またはARBが主要降圧薬になります。
肥満や耐糖能異常がある場合、ARBのテルミサルタン(商品名:ミカルディス)を選択する場合があります。本剤は血圧を下げる作用以外に脂肪細胞に存在するとされているペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR-γ)を活性化する作用があり、その結果、アディポネクチンを増加させる作用があると考えられています。アディポネクチンにはインスリンを効きやすくしたり、血糖を筋肉や組織に取り込みやすくする作用があり、肥満傾向の方には適していると考えられます。したがって、本剤は血圧を下げる作用の他に弱いながらも血糖を下げる作用も期待できますので、肥満やメタボリックシンドロームの方には適した薬剤であると言えます。
ただし、本剤は肝で主に代謝されるため、肝機能が悪化している患者への投与には注意が必要です。
頻脈にβ遮断薬
頻脈を呈する症例では、積極的適応のあるβ遮断薬から治療が開始されます。β1受容体選択性が高いとされるビソプロロールフマル酸塩(商品名:メインテート)やアテノロール(商品名:テノーミン)などが広く使われています。
これまでβ遮断薬も第一選択薬として使用されていましたが、欧米の大規模試験でβ遮断薬が他の降圧薬に対して非劣性を示さなかったことから、β遮断薬は第一選択薬から外れています。しかし、β遮断薬は、心不全、頻脈、狭心症、心筋梗塞に対する主要降圧薬としては残っているため、これらの疾患に対して積極的に投与していくことは望ましいとも考えられます。若い方に多く見られる拡張期血圧が高く、頻脈傾向を呈する症例では、第一選択薬ではないが、β遮断薬が良い適応になると考えられます。
日内変動にCa拮抗薬
高齢者において、血圧の日内変動が大きい場合は、心血管死亡や認知機能低下につながることが報告されている。朝の血圧と夜の血圧とで数値の差が大きい場合は注意が必要です。血圧手帳を毎日記録してあれば、毎日の家庭血圧値がばらつきに気づくこともあります。
日内変動を最も改善できる薬剤は長時間作用型のCa拮抗薬であり、次いでARBやACE阻害薬があります。長時間作用型Ca拮抗薬としてアムロジピンベシル酸塩(商品名:アムロジン、ノルバスク)があり、単剤投与で使用されることもありますが、配合剤の主成分の一つとして配合されている薬剤でもあります。本剤の降圧作用の発現までに1週間程度かかりますが、確実に降圧作用を示し、その作用は長時間持続します。また、本剤は高齢者でも副作用を起こしにくい薬剤です。
腎機能低下にループ利尿薬
利尿薬は薬理作用よって以下の3つに分けられます。①サイアザイド系利尿薬②ループ利尿薬③カリウム保持性利尿薬・アルドステロン拮抗薬の3つです。
①サイアザイド系利尿薬
利尿薬の中で降圧作用が最も強いですが、副作用も多い薬剤です。低カリウム血症を起こすおそれがあり、糖・脂質・尿酸の代謝異常を起こすことがあるため、糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症の患者には使用しにくい薬剤となっています。また、腎機能低下時の効果は乏しく、慢性腎不全の患者においてはあまり使えません。
②ループ利尿薬
ループ利尿薬はサイアザイド系利尿薬ほどは降圧作用が強くありませんが、腎血流量や糸球体濾過率の減少に影響を与えません。そのため、腎障害がある方に対しても使用で可能な薬剤です。低カリウム血症を起こす可能性はあるので注意が必要です。
③カリウム保持性利尿薬・アルドステロン拮抗薬
本剤は、カリウムの排泄を抑える効果があるため低カリウム血症を起こすことがありません。そのため、カリウムのバランスをとるために他の利尿剤と併用されることがあります。しかし、降圧作用は3つのうちで最も弱いとされています。
腎機能低下を起こしている場合特に血清クレアチニン値2.0 mg/dL以上の場合、降圧薬のむやみな追加や増量を行うと腎機能をかえって悪化させる場合があり、降圧効果自体も期待しにくいと考えられます。このような症例においては、ループ利尿薬の追加が効果的です。前述のように腎機能低下時は、サイアザイド系利尿薬の効果は乏しいと考えられます。
ただし、ループ利尿薬を追加する場合は、少量から開始して自覚症状、血圧、腎機能、電解質の変化などに注意をしながら慎重に増量して、降圧を図らなくてはなりません。